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研究Research

研究概要Research concept

本研究グループの目的は、バイオマテリアル(生体材料)の「細胞バイオテクノロジー」への様々な基礎研究とその応用展開を進めることである。バイオマテリアルとは、体内で使用する、あるいは細胞や体内成分(タンパク質、核酸、多糖、あるいは脂質など)、細菌、ウイルスと触れて使用する材料(高分子、金属、セラミックス、およびそれらの複合体)である。その研究領域は、皆さんがイメージする人工臓器(医療デバイス)やドラッグデリバリーシステム(DDS)だけではない。バイオマテリアルは、再生治療あるいは細胞培養や創薬スクリーニングなどを支える重要な技術と方法論を与える。細胞研究や創薬研究、さらには衣服、化粧品、ヘルスケア、健康食品分野においても、細胞や生体成分と触れる材料が必要となり、まさにバイオマテリアルの出番となる。

ライフサイエンス(大学では生命科学、社会では生活科学と訳す)領域の具現化に必要不可欠なものの1つがバイオマテリアルである。研究対象がタンパク質、遺伝子、細菌、ウイルスであったこれまでの「バイオテクノロジー」は、今やその対象が細胞へと広がっている。この「細胞バイオテクノロジー」領域において、今後、バイオマテリアルが重要な位置を占めることは疑いない。本研究グループでは、産学官の機能的な繋がりを通して、バイオマテリアルから見た「細胞バイオテクノロジー」領域の研究開発を進めている。

図1
バイオマテリアル技術の包含する研究開発領域
工学と医学・歯学・獣医学と薬学と農学・理学の境界融合領域

「再生医療」という言葉は、今や一般にも広く知れ渡っている。しかし、その考え方、とらえ方は、人によって様々である。


図3
再生医療の基本概念と再生医療分野

さて、「再生医療」とはどのようなものであろうか?ここでは、「医療」を「治療」と「研究」(将来の治療を支える)に分けて考えてみる。体内移植された細胞の増殖分化能力によって病気を治すことが一般的な再生治療のイメージであろう。これは間違いではない。その本質は、患者自身のもつ自然治癒力を高め、病気を治すということである。もちろん、自然治癒力の基は細胞の能力であり、細胞が大切であることは疑う余地はない。風邪に対する最良の治療は、栄養をとってじっくりと寝ることである。例えば、風邪の治療に細胞移植をうける人はまずいない。これは体内にある細胞能力を回復、自然治癒力を高めることができれば、自然と病気は治っていくからである。すなわち、体内にもともと存在している細胞の能力を高め、細胞を元気にすることによっても再生治療は可能となる。具体的には、細胞によい周辺環境を与えて細胞を元気にすることである。細胞の周辺環境は、細胞外マトリクス(細胞の家)と液性シグナル因子(細胞の栄養)とからなっている。


細胞が好む素材で家を作り、細胞に栄養をドラッグデリバリーシステム(DDS)技術を使ってうまく与えることができれば、本来の体に備わっている細胞が必要な部位で元気になり、病気を治すであろう。また、細胞の住家や栄養の整備により移植細胞の体内生存率を高める、必要部位に細胞を移動させる、あるいは周辺環境としての炎症反応を制御するなど、いろいろな方法によって体内で細胞を元気にすることによっても再生治療は実現できる。これらの一連の材料、技術、方法論は、「研究」にも役立つ。細胞シートの積層化、細胞凝集体などの三次元細胞培養材料、技術、方法論が研究開発されている。体内環境に近い三次元条件で細胞を培養すること、細胞機能の遺伝子改変やオルガノイドの作製などは、細胞研究や創薬研究にも革新をもたらすことになるであろう。細胞とその周辺環境作りの工学、薬学技術の融合と企業化への橋渡しによって、再生医療はさらに発展する。

図4
からだのしくみ: 細胞とその周辺環境

再生医療には4つの領域がある。1)細胞移植、2)組織工学、3)薬研究、および4)遺伝子治療である。


図5
再生医療分野 -細胞の能力を高める技術-

1)、2)、4)は「治療」、2)、3)、4)は「研究」領域となるが、いずれの分野おいても「細胞を元気にする」ことがKEYであることがわかる。1)に関して、対象となる細胞は幹細胞だけではなく、CAR-T細胞などのがん免疫治療も含まれる。細胞が元気になれば治療効果は高まる。2)は材料技術を活用した細胞の周辺環境作りである。これを体内で行えば「治療」に、体外で行えば「研究」の効率が高まる。3)には、三次元培養技術を利用した薬スクリーニングが対応する。体内に近い三次元環境の細胞を利用して薬効、代謝、毒性などを評価、新しい薬を開発する。4)は遺伝子レベルでの細胞機能の改変・調節がその中心となる。国際的には、これらのいずれの4つも、同じように再生医療では必要不可欠な領域として考えられている。我が国はどうであろうか。再生医療分野では、今やその対象細胞やその周辺技術が大きく拡がっていることを認識することが大切である。「再生治療」には厚生労働省からの許認可を得ることが必要となり、その実用化にはお金と時間がかかる。これに対して、細胞研究や創薬研究は、細胞の全てが死ぬことがなければ、どのような材料でも技術でも使うことができ、その事業化は、前者に比べてハードルは低い。企業化を狙う場合には、再生医療産業への出口の違いをよく理解することが必要である。


これまでバイオマテリアルの立場から、医工薬境界融合領域の「再生医療」を見てきた。ここで、この領域を別の観点から見直してみるのも面白いのではないだろうか。これまで、生物医学と理工学との融合領域で発展してきた研究分野に「バイオテクノロジー」がある。この研究対象は、タンパク質、遺伝子、細菌などであり、すでに、研究成果からいろいろな商品化が実現してきている。その研究対象に、「細胞」が新たに加わったと考えるのはどうであろうか。これまでに得られている材料、道具、技術を「細胞」に向け、細胞の機能を最大限に利用する(細胞を元気にする)。これこそが再生医療の本質であり、再生医療とは「細胞バイオテクノロジー」と考えられる。このアイデアの基、基礎研究、応用研究、からその事業化に至る多くの分野領域を「横ぐし」で貫くような何らかの仕組みが必要である。本研究グループでは、分野を超えて学術の輪を広げ、再生医療(再生治療+再生研究)のさらなる発展のために産学官の機能的な繋がりを推進している。以下に代表的な研究内容について述べる。


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1) 生体組織の再生治療のためのバイオマテリアル

再生治療では、体のもつ自然治癒力の基となる細胞の増殖分化能力を高め病気の治療を実現する。本研究グループでは、細胞の増殖、分化を高めるための足場としての3次元あるいは多孔質構造をもつ生体吸収性の成形体 (人工細胞外マトリックス)をデザイン、創製している。また、細胞の増殖、分化を促すための生体シグナル因子 (タンパク質や遺伝子) の体内活性を高めることを目的として、細胞増殖因子あるいはその関連遺伝子のドラッグデリバリーシステム (DDS) 研究を行っている。例えば、生体吸収性材料に細胞増殖因子あるいはその関連遺伝子を包含させ、再生部位で徐々に放出 (徐放) する。この徐放化技術によって、体内での生体シグナル因子の生物活性が効率よく発揮され、その結果として、種々の生体組織・臓器の再生誘導が促進されることがわかってきている。現在、この細胞増殖因子の徐放化技術を利用した血管、骨、歯周組織などの再生誘導治療の臨床研究が始まっている。加えて、自然治癒力を高めて、難治性慢性疾患の悪化進行を抑制するという抗線維化治療を行っている。

図6

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2)幹細胞工学および再生創薬研究のためのバイオマテリアル

図7_1

本研究グループでは、この細胞移植治療に不可欠である幹細胞、前駆細胞、および芽細胞などを効率よく得ることを目的として、それらの細胞の単離、増殖、分化のための培養基材および培養技術について研究開発を行っている。種々の生体材料からなる培養基材あるいは培養装置 (バイオリアクタ) の組み合わせによる細胞培養技術の確立を目指している。これらの一連の研究は、細胞移植再生治療のために利用可能な細胞を得ることを目的としているだけではなく、広く、細胞の増殖・分化、形態形成に関する生物医学の基礎研究 (再生研究) にも応用できるバイオマテリアル、技術、方法論を提供することも大きな目的である。 この技術は細胞を用いた薬の代謝、毒性を評価する創薬研究にも応用できる。加えて、非ウイルス性キャリアを用いて、プラスミド DNA や small interfering RNA ( siRNA)などの核酸物質、低分子、ペプチド、 タンパク質などを細胞内に効率よく取り込ませ、 細胞の生物機能や分化を制御する技術も研究開発している。


体の最小単位は細胞であるが、生体機能の単位は細胞の集合体である。そのため、細胞集合体を利用した研究が始まっているが、細胞集合体サイズの増大にともない、集合体内部の細胞は酸素、栄養の供給が悪く、死滅、細胞機能の維持が困難となる。この問題を解決する技術、方法論を研究している。例えば、生体吸収性ハイドロゲル粒子を細胞集合体内に含ませるという方法により、細胞集合体内での状態が改善、細胞機能の向上が認められた。培養と機能状態のよい細胞集合体が入手できれば、細胞研究の発展と薬の開発、毒性評価 (創薬研究) がより進展すると考えられる。

図7_2

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3) ドラッグデリバリーシステム (DDS) のためのバイオマテリアル

図8

薬物が効くのは、薬物がその作用部位に適切に作用するからである。しかしながら、現実には、薬物は部位選択性がなく、その薬理作用を発現させるために大量投与が行われている。これが薬物の副作用の主な原因となっている。そこで、薬物を必要な部位へ、必要な濃度で、必要な時期にだけ働かせるための試みが行われている。これがDDS である。DDSの目的は、薬物の徐放化、薬物の長寿命化、薬物の吸収促進、および薬物のターゲッティングなどである。いずれの目的にも、薬物を修飾するための生体材料が必要である。本研究グループでは、対象薬物として、治療薬だけではなく、予防薬、診断薬、化粧品成分、ヘルスケア物質などを取り上げ、バイオマテリアル学の観点からのDDS研究開発を行っている。


図8_1
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4)外科・内科治療アシストのためのバイオマテリアル

本研究グループでは、高分子、金属、セラミックス、およびそれらの複合材料の医療応用として、外科・内科治療の補助のためのバイオマテリアルの研究開発を行っている。


図9

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