皮膚微細構造イメージング研究
多光子イメージングを用いたヒト皮膚の微細構造に関する研究
コラーゲン線維や弾性線維のラベルフリーイメージングは多光子顕微鏡を用いた比較的新しい微細構造画像化技術の一つである。多光子顕微鏡はフェムト秒(10-15秒)の超短パルスレーザー光を用いて蛍光分子に多数の励起光子の吸収を可能とする顕微鏡である。例えば二光子励起では励起光の波長が2倍となるため、近赤外光を用いることが可能となる。近赤外光は組織への透過性が良く、可視光よりも深い層の観察が可能となる。多光子顕微鏡の画像化モード一つに第二次高調波発生がある。超短パルスレーザー光をコラーゲンに照射すると、コラーゲン分子の非線形光学的作用により入射した光の半波長の光が発生するため、抗体を用いずに(ラベルフリーで)コラーゲンが観察可能となる。このラベルフリーイメージングを用いてこれまでの顕微鏡手法では解き明かすことができなかったヒト皮膚の微細構造を解明する。
ヒト真皮におけるコラーゲン線維と弾性線維の高次構造及び共局在性の発見
形成外科では局所皮弁により皮膚欠損や瘢痕拘縮、変形を直す。この局所皮弁手技では皮膚を60度や90度に傾けて移動させる操作が行われるが、このような移動が可能なのは皮膚に備わる柔軟性のおかげである。皮膚の柔軟性は真皮内の弾性線維に由来するが、弾性線維がどのように皮膚にストレッチを与えるのかはよくわかっていない。論文や教科書、さらにはインターネット上で真皮の構造を検索すれば、沢山の真皮のイラストを見ることができるが、コラーゲン線維と弾性線維の描かれ方は様々である。つまり、それらの線維がどのように分布し、どのような相互的関係にあるのかが全くわかっていなかったのである。
コラーゲン線維や弾性線維は光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡、レーザー顕微鏡で容易に観察が可能である。また線維の配向性もコンピューターで自動解析できるようになった。前述のように多光子顕微鏡では皮膚をラベルフリーで、かつ三次元に観察が可能となった。それでも解明できない理由を考えた。第 1 にコラーゲン線維が生理的状態でたわみがあることと、たわんだ線維が三次元空間で交織することにより、二次元的な自動形態解析が適応できないこと、第 2 に死後硬直、皮膚切除後の自家収縮、固定による組織収縮・変形により、線維の密度が高まるためと考えた。
そこで組織を等方性に伸長させてコラーゲンを直線化させる手法を考案した。多光子顕微鏡と二軸伸展、組織透明化を行い、フーリエ変換で線維配向を定量解析した。結果、コラーゲン線維が菱形格子状に配列すること、弾性線維はコラーゲン線維束と同じ方向に局在することを発見した1)(図1)。
図1. 交織するコラーゲン線維(ターコイズ)とそれらに平行して走行する弾性線維(レッド).
参考文献
- 1. Maho Ueda, Susumu Saito, Teruasa Murata, Tomoko Hirano, Ryoma Bise, Kenji Kabashima & Shigehiko Suzuki. Combined multiphoton imaging and biaxial tissue extension for quantitative analysis of geometric fiber organization in human reticular dermis. Scientific Reports. 9:10644, 2019.