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多指症

多指症について

「生まれたら多指症と診断された」
「親指に爪が2つある」

疾患の概要

外来で最も多く認められる母指多指症についてご説明します。
爪が2つある末節型から、母指の基部から2本に分かれる型まで程度によりさまざまな形態を呈します。
症候群の一つの症状として発症することもありますが、多くは偶発的、単発的に多指症のみを発症しています。指はその発生段階ではまず大きな手の固まりができて、それから指間部がアポトーシス(自然死)することで形成されますが、その形成が素直に起きなかったことが原因です。ご両親に対しては外来にてまず発生学や疫学的背景について説明し、疾患に対するご理解をいただいております。

多指症の例
多指症は単純に「重複した2本が存在するので切除すればよい」のではありません。
それぞれの指には関節面が傾斜していたり、靭帯にゆるみがあったり、腱の付着部位にずれがあったりします。これらは将来的な指の変形の原因となります。乳児期では骨が未熟であるためレントゲンでは関節の適合性についてわからないことが多く、関節の傾斜が成長に伴って明らかになるケースもあります。このような関節や軟部組織のアンバランスについては数々の治療経験からある程度予想可能であり、将来的な変形を見越した上で初回治療の計画を立てます。長期に経過観察を行う必要があることから、手足の先天異常を扱う専門機関を受診し治療を受けることをお勧めします。

手術時期は1歳前後-2歳までに行うことがほとんどです。
麻酔は全身麻酔となります。麻酔についての不安についてはどのご両親もお持ちです。
丁寧に説明させていただきます。
ギプスによる保護を2-3週間行います。
入院については、ギプスをした児を在宅で管理できるのであれば、早期の退院が可能です。在宅での管理に不安を感じる場合には入院期間は長めとなります。
最短2泊3日から3週間までご相談に乗ります。

成長してから指骨の軸の配列異常を認めたケース
このような症例は関節の傾斜、靭帯のアンバランスや腱の付着部のずれなどがあり、複合的な治療の計画を立てる必要があります。
手術の詳細です

1.切除する指の決定

・片側切除の場合
主に指の配列(軸と呼ぶ)、大きさ(低形成かどうか)、術後のきずあと(瘢痕と呼ぶ)は目立ちにくいかどうかを考慮して切除する側を決定します。

・併合法の場合
両方とも低形成の場合には両側を半分ずつ併合する手術方法も考慮します。
当科では併合手術の場合に、指のサイズを計測し、健常な指の大きさや形態を再現するようにしています。
また併合法では爪の変形が欠点の一つでしたが、それが生じた場合にも爪を延長したり、爪郭(爪の周りの皮膚)を形成してかたちを整える修正手術を行うことにより、より自然な形態を獲得できるようになっています。

2.関節の形成と腱の移行

関節を共有している場合には関節包を縫合する必要があります。
腱が一方にしかない場合にはそれを残す側の指に移行する必要があります。
また腱の走行異常がある場合には、腱の停止部を移動させる場合があります。
これらの場合、鋼線による関節固定が3週間行われます。

3.傷あとについて

手術の創は母指の爪が上を向く状態で手を眺めた際に最も目立ちにくい箇所になるように心がけます。
創を生理的な皺線に沿うように形成して、形成外科的縫合方法により皮膚をきれいに適合させます。
将来的な修正を見越して、初回はボリュームを大きめにする場合があります(ボリュームを後から補充することは困難です)。

多指症の手術後の例
傷跡はほとんど目立ちません。
もし指の骨軸の変形がある場合には成長をみながら矯正治療を行っていきます。

4.機能的予後について

小児は環境や自身の不自由に対して非常に適応能力が高いことから、機能的な困難を訴える児は少ないですが、前述のように関節面の傾斜や軟部組織のアンバランスにより成長に従って指の変形が増悪することがあります。
これについては経過をみて関節面を平行にする矯正骨切り術や靭帯バランスの修正、腱の移行術などを行いますが、変形の再発、骨の成長抑制を起こさないように時期や術式を慎重に検討する必要があります。

手術後の見通しについて
手術後数日 
・ 指が腫脹して血行障害が起きていないかをチェックします。
・ ギプスを装着している児に対するケアの方法を勉強して頂きます。
手術後3週間まで
・ 鋼線部の消毒を行います。外来では週1回チェックさせて頂きます。
それ以外は自宅でしていただくことになります。
手術後3週前後
・ ギプスをカットして、鋼線の抜去や抜糸を行います。
・ 再建した関節や移行した腱を保護するため、ドレッシング(ガーゼの当て方)を理解して頂きます。
・ 児が患手を使って遊ぶことを許可します。
手術後6週以降
・ ドレッシングは終了し、手は素の状態となります。
・ 関節の傾斜等の原因で骨軸の偏位が生じることが予想される場合には、簡易的な副子や装具を継続します。

(written by S. Saito, 2013)