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熱傷

熱傷について

熱傷とは、火災や熱湯などによる高温で障害されて生じる皮膚の変化であり、小範囲であれば外来での局所処置で対応できますが、広範囲のものでは入院での加療が必要となります。いずれの場合にも、創の二次感染がなくすみやかに上皮化することが重要であり、これが患者さまの救命や機能的予後の改善、あるいは目立つ瘢痕を残さないことにつながります。

熱傷の病態

熱による損傷を受けた皮膚はタンパク質が変性し、場合によっては焼痂(しょうか)と呼ばれる羊皮紙様(白くなりつやつやした状態)に変化します。広範囲になると創面からの滲出液の漏出に加え、全身の水分が血管から漏出するために血液中の水分が減少し、臓器不全をきたします。この時期を乗り切ると、創の感染による敗血症の危険性が高くなります。そのほか、活動量の減少、血液量の変動によって深部静脈血栓症や肺塞栓症を生じたり、肺炎・尿路感染症や、脳梗塞などさまざまな合併症をきたすことがあります。

熱傷の重症度の評価

熱傷の重症度を評価するには、受傷した熱傷の深さと面積が重要です。熱傷深度は次の3つに分類されます。

1)I度熱傷

表皮に限局した熱傷で、皮膚の発赤のみで瘢痕を残さず治癒します。発赤のみで水疱を生じていない部分です。海水浴の後の日焼けで、皮膚が真っ赤になっているのは、このI度熱傷です。

2)II度熱傷

真皮の途中までの熱傷がII度熱傷であり水疱を生じます。II度熱傷を軽症の浅いものと重症の深いものに分け、それぞれを浅達性II度熱傷(SDB)、深達性II度熱傷(DDB)と呼びます。これは、SDBでは毛包などの皮膚付属器の多くが残存しており手術が不要なことが多く保存的治療で瘢痕を残さずに治癒することが多いのに対し、DDBでは保存的治療では治癒に長期間を要し肥厚性瘢痕を残すことが多く、手術が必要となることが多いためです。肉眼的にはピンク~赤色で血色が良ければSDB、白っぽくて血色が悪い状態や、濃赤色で圧迫しても色調が消褪しないものはDDBのことが多いです。

3)III度熱傷

皮下組織にまで及ぶ熱傷で、皮膚の血流が途絶えるために外観上は蒼白になります。火災が原因の場合には炭化して黒色となることもあります。いずれの場合にも、焼痂(熱傷壊死組織)には血流がなく感染源となるため、早くデブリードマン(※)を行う必要があります。保存的に治療した場合には創内部からの治癒は得られず、周囲からの上皮化と創収縮による創閉鎖を待つ必要があります。
(※)デブリードマン:壊死した組織を、手術などで切除してきれいにすること

I度熱傷         II度熱傷       III度熱傷

熱傷を受傷した面積をおおまかに計算するには、9の法則を用います。その他には、指を含めた手のひら全体が、およそ体表面積の1%に相当します。

重症度の指標には、BI (burn index)がよく用いられます。この他に日本では患者の年齢を加味したPBI (prognostic burn index)も用いられることがあります。いずれも患者の死亡率とよく相関するため、熱傷患者の重症度評価に有用です。

熱傷創の処置

熱傷創面は皮膚のバリア機能が失われており、また広範囲熱傷患者は免疫力が低下していることと合わせ、細菌感染を生じやすい状態です。感染を生じると創治癒が遅延し、敗血症を引き起こします。このため熱傷患者の管理では感染を予防することがきわめて重要です。入院中の熱傷患者さまには多くの人が関わるため、医療スタッフだけが感染予防に配慮するだけでは不十分で、医師・栄養士・理学療法士・放射線技師・家族など患者に接触する人すべてが協力して、感染予防に最大の注意を払う必要があります。
広範囲熱傷ではできるだけ個室管理とし、入室時には帽子・マスク・エプロン・手袋を装用すること、ベッド周りの環境整備を厳重に行うことなどに配慮します。シャワー室や排水溝周囲は常に清潔に保つとともに定期的に拭き取り検査による細菌検査を行います。共用シャワーや浴槽は、院内感染の原因となるため受傷早期は使用しないことが推奨されています。

洗浄・消毒について

受傷早期の感染を伴っていない熱傷創に対しては、一般に消毒は必要ないとされています。洗浄によって表面の異物・汚染物・微生物などを取り除き創傷治癒に適した環境を整えることが重要です。日本の水道水はほぼ無菌に保たれているため、洗浄に用いる洗浄液は水道水でもよいとされていますが、水道の蛇口やハンドルが汚染されていることがあるので注意が必要です。また、洗浄ボトルに水道水を入れて用いる場合には、洗浄ボトルを適切に消毒し清潔に保つことが重要です。感染を伴う創や、バイオフィルム(※)を伴う創には消毒を行うこともありますが、消毒薬は蛋白凝固作用や酸化力により殺菌力を発揮するため、膿や浸出液、壊死組織などの有機物が存在すると消毒効果が弱まってしまいます。このため、まず最初に壊死物質などを十分に取り除いてから消毒します。その後、残留している消毒液による細胞障害を最小限にするために、余分な消毒液を洗浄して取り除きます。
(※)バイオフィルム:細菌が菌体外多糖という物を作って堆積して、創表面にネバネバと付着した細菌の塊のこと

I度熱傷

特別な処置は必要ありません。局所冷却やステロイド軟膏の塗布が鎮痛によいとされています。

感染を伴わないII度熱傷の場合

創の治癒を促すためには乾燥を防ぐことが重要です。創を乾燥させると、皮膚付属器からの上皮化が抑制され治癒が遅くなります。しかし、表皮が重層化して角質層を形成し丈夫になるためには空気に触れる必要があるため、創から滲出した余分な滲出液は適切に排出される必要があります。上皮化が完了した部分は乾燥させ、上皮化がまだの部分は湿潤を保つのが理想であり、滲出液の量に応じて適切な被覆材を選択します。また、被覆材が滲出液を多量に吸収したまま長時間放置すると、その滲出液の中で細菌が増殖し創感染の原因となりますので、滲出液の量に応じて適切な頻度で交換するようにします。
さまざまな被覆材が販売されており、例えば滲出液の少ない創にはハイドロコロイドドレッシング(デュオアクティブ、バイオヘッシブなど)、少し多めの創にはハイドロファイバー(アクアセルなど)、さらに多い創にはポリウレタンフォーム(ハイドロサイトなど)、高吸収コットン(デルマエイド、メロリンなど)やガーゼを用います。
近年、メピレックスボーダーやエスアイエイドなどのシリコンを用いた低固着性の製品が登場しており、ドレッシング交換時の痛みや新生上皮の損傷を軽減できます。
軟膏を用いる場合には、白色ワセリン(プロペト)、アズノール軟膏などを上記の被覆材に塗布して使用します。いずれにしても、これらを組み合わせて次の交換時に乾燥し過ぎておらず、かつ滲出液でびしょびしょにならない状態を保つようにします。

感染を伴うII度熱傷の場合

二次感染を生じると滲出液の量が増えるとともに、臭いが強くなります。感染が進行すると熱傷深度が悪化し治癒が遷延するため、すみやかな対応が必要です。感染を疑った場合には細菌培養検査を行うとともに、閉鎖療法を避け滲出液が十分にドレナージされるようなドレッシングに変更します。抗菌作用のある薬剤(ユーパスタコーワ軟膏、カデックス軟膏、ゲーベンクリームなど)が用いられますが、処置時に創面に残った薬剤をしっかりと毎回洗い落とすことが重要です。感染の程度に応じて処置回数を増やすことも効果的です。感染の結果、壊死組織が創面を厚く覆っている場合には、手術によるデブリードマンを行うことが望ましい場合があります。

III度熱傷の場合

ごく小範囲のものを除き、原則としてできるだけ早くデブリードマンを行います。それまでの間は感染を防ぐために清潔に保つことが重要です。デブリードマンを行ったあとは、肉芽の増生や上皮化を促すために湿潤環境を維持します。感染を生じた場合は、前述のII度熱傷の場合と同様に抗菌作用のある薬剤を用います。
<ラップ療法について>
食品用ラップは医用材料としての承認が下りておらず、安全性が確認されていないこと、水分の透過性がなく滲出液がすべて貯留するため過湿潤となりやすいなど、創処置に用いるのに適切ではありません。ラップで処置をして感染が重篤化した報告もあり、日本熱傷学会では食品用ラップなどの非医療材料を用いた治療は推奨しないという見解を出しています。

熱傷の手術治療について

ある程度の大きさ以上のDDB熱傷やIII度熱傷に対しては、手術による治療を行った方がよい場合があります。特に、全身の広範囲に及ぶIII度熱傷では、救命のために手術を行うことが必須です。熱傷で皮膚が失われた部分の皮膚を再建する手術方法としては、患者さん自身の健常な部分の皮膚を採取して熱傷で皮膚がなくなった部位に移植する、植皮術が基本です。

手術の時期について

手術を行う時期は、①超早期手術(受傷後48時間以内)、②早期手術(1週間以内)、③晩期手術(それ以降)に分けられます。日本熱傷学会「熱傷診療ガイドライン」では、広範囲熱傷(全身の30%以上)に対して、2週間以内にすべて、もしくは90%までの焼痂組織を切除し創閉鎖することが推奨されています。早く手術を行うメリットは以下の通りです。

  1. 早く創面積を減少させることで、感染の可能性を低下させる。また、熱傷創部からの滲出液の漏出や、炎症を起こす物質が放出されることを抑えることにより、全身状態を改善する。
  2. とくに手背などのDDBでは、早期に植皮術を行うことで、機能的・整容的な予後を改善することができる

一方、デメリットとしては、

  1. 超早期手術では、患者さんの全身状態に対する負担が大きい
  2. 保存的治療で治癒が進むのを待たずに行うため、本来であれば手術する必要がなかった範囲まで手術を行ってしまう危険性がある。このため、より広い範囲の皮膚採取が必要になる可能性がある。

手術を行う時期については、患者さまの全身状態や熱傷面積などから、上記のメリット・デメリットをよく考えた上で決定します。

手術計画

広範囲熱傷ではくり返し手術を行う必要があり、手術を行う時期や部位について、綿密な計画を立てる必要があります。後で述べる自家培養表皮を使う場合には、できるだけ早い時期に自家培養表皮作製用の皮膚を採取しておきます。
<植皮の種類について>
植皮には、大きく分けて全層植皮と分層植皮があります。植皮片は、薄い方が生着しやすい反面、仕上がりは硬く、拘縮が強いなど機能的・整容的な予後は悪くなります。一方で、全層植皮では生着させるのが難しくなりますが、うまく生着すれば軟らかく拘縮しにくい良好な結果が得られます。
植皮をどのような形で移植するかによって、シート植皮・メッシュ植皮・パッチ植皮に分けられます。メッシュ植皮では、網目の隙間から出血や滲出液、膿などが排出されるため感染に強く生着しやすい利点があります。しかし拡大率が大きくなればなるほど網目の隙間が広くなり、上皮化に時間がかかります。同様にパッチ植皮は広範囲の創面を治療するのに有用ですが、植皮片の間隔が広くなると上皮化までに長い時間がかかります。これらの点から、顔や手足・関節部にはシート状植皮の方が好まれます。

シート植皮            メッシュ植皮         パッチ植皮

皮膚を採取する部位について

全層植皮を行う場合には、基本的には縫縮(縫って閉じること)できる部分からしか採取できないため、通常は下腹部や脚のつけ根から採取します。分層植皮の場合、術中の体位や熱傷創部との位置関係、瘢痕の目立ちやすさなどを考えて決定します。凹凸のない部分が採取しやすいため、体幹部・大腿・臀部がよく用いられます。採皮創は残存した毛根などの皮膚付属器から上皮化が起こり治癒するため、髪の毛がある部分は治りやすく、頭部は採皮に適しています。また、頭部は採皮した傷あとが髪の毛に隠れて目立たないメリットもあります。

植皮術後の固定

植皮が生着するためには、植皮片がずれないように固定し、適度な力で圧迫された状態で安静を保つことが必要です。このため、植皮片の上にガーゼを載せてこれを糸でくくって固定する、タイオーバー固定を行います。

自家培養表皮「ジェイス」について

非常に広範囲の熱傷では、正常な皮膚があまり残っておらず植皮術のための皮膚が足りないことがあります。このような場合に、患者さん自身の皮膚の細胞を培養して、人工の皮膚を作って用いることができます。日本初の再生医療製品として認可された、J-TEC社の自家培養表皮「ジェイス」は、30%以上の面積の熱傷を受傷した患者さまに対して使用できます。患者さん自身の皮膚を約2cm2採取してJ-TEC社に送り、この皮膚から表皮細胞を取り出して培養します。約3週間後にはシート状の培養表皮となって、患者さんのもとに届けられます。これを熱傷で皮膚がなくなった部分に移植します。

   

    自家培養表皮「ジェイス」の製造法       ジェイス移植時の状態

当院の熱傷診療について

熱傷は小さなものであれば誰しも一度は経験したことがあるような、ありふれた損傷です。しかし適切な処置が行われないと治癒が遷延し、目立つ瘢痕を残したり瘢痕拘縮による機能障害を残すこともあります。京都大学医学部附属病院は、日本熱傷学会熱傷専門医認定研修施設であるとともに、皮膚移植術(死体)に関する施設基準を満たしています。主に形成外科の日本熱傷学会専門医が診療を担当しますが、広範囲の熱傷では初期診療・救急科と共同して診療を行います。
熱傷専門外来を毎週月曜日午前(担当:坂本道治)に設けていますが、急ぐ場合には他の曜日の外来も受診して頂けます。他の病院からの転送も随時受け付けておりますので、担当医までお問い合わせ下さい。
(京大病院代表:075-751-3111 形成外科坂本まで)

参考文献

  1. 坂本道治ほか. 熱傷のアセスメントとケア. WOC nursing. 6(7):42-49, 2017
  2. 坂本道治ほか. 熱傷治療ガイド2010「植皮術」. 救急医学. 34:451-454, 2010
  3. 島崎栄二ほか.熱傷の統計.救急医学.31,2007,744-7
  4. 熱傷診療ガイドライン(改訂第2版)、一般社団法人日本熱傷学会学術委員会、2015、春恒社、東京
  5. 創傷治癒コンセンサスドキュメント ステートメント72、感染創は消毒より洗浄が有効である 全日本病院出版会、日本創傷治癒学会ガイドライン編集委員会、東京、p170-171
  6. 日本皮膚科学会ガイドライン 創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン-1: 創傷一般ガイドライン 日皮会誌:127(8), 1659 – 1687, 2017
  7. 日本熱傷学会ホームページ http://www.jsbi-burn.org/kenkai/pdf/kenkai.pdf