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神経線維腫症Ⅰ型(レックリングハウゼン病)

神経線維腫症Ⅰ型(レックリングハウゼン病)について

どのような病気?

出生時からカフェ・オ・レ斑と呼ばれる色素斑が増え、学童期から神経の神経線維腫やびまん性神経線維腫が、思春期から皮膚神経線維腫が生じます。その他にも、患者さんによっては神経、骨、眼などに多彩な症状を呈します。しかし、それぞれの患者さんに全ての症状がみられるわけではありません。
1882年にドイツのFriedrich Daniel von Recklinghausenにより初めて学会報告されたため、「レックリングハウゼン病」とも呼ばれています。

患者さんの数は?

神経線維腫症Ⅰ型の患者さんは、約3000人に1人の割合で生まれます。日本に約40,000人、アメリカ合衆国には約100,000人の患者さんがいらっしゃると推定されます。遺伝子が原因の病気の中では、患者さんが多い病気と言えます。

病気の原因、病態は?

人間の細胞の核の中には23対の染色体があります。その中で、17番染色体長腕(17q11.2)にNF1遺伝子と呼ばれる原因遺伝子が位置します。このNF1遺伝子はニューロフィブロミンというたんぱく質を産生します。ニューロフィブロミンは、細胞内に情報を伝えるスイッチのような役割を果たすRasという低分子量Gたんぱく質の機能を負に制御(スイッチをオフ)しますが、NF1遺伝子に変異が起こることでこのスイッチをオフできなくなり、細胞増殖が引き起こされます。そのため、様々な病変を生じると推測されています。

遺伝形式は?

「常染色体優性遺伝」という遺伝の形を取るため、ご両親のどちらかが神経線維腫症Ⅰ型である場合、50%の確率で神経線維腫症Ⅰ型の赤ちゃんが生まれます。しかし、患者さんの半数以上は突然変異と言って、神経線維腫症Ⅰ型でないご両親から出生されます。

診断

日本皮膚科学会の診断基準を参考にして診断します。しかし乳児期はカフェ・オ・レ斑のみの症状であることがほとんどであるため、家族歴がなければ診断が難しく、神経線維腫症Ⅰ型疑いとして定期的に通院していただくことになります。技術的に遺伝子診断は可能ですが、現在本邦では保険適応は認められていません。

検査

年齢とともに症状が進むため、定期的な通院が必要です。お子様は半年に1度、成人の方は1年から数年に1度受診していただきます。

形成外科で治療する主な症状

カフェ・オ・レ斑

扁平で盛り上がりのないあざ(色素斑)で、色は淡いミルクコーヒー色から濃い褐色に至るまで様々です。レーザー機器を用いた治療の有効性が報告されていますが、再発、色素沈着、色素脱失などをきたすことがあります。顔の病変に対してはカバーファンデーションも有用です。

皮膚神経線維腫

皮膚や皮下組織にできる常色~淡紅色の良性の腫瘍です。ほとんど全ての患者さんに思春期頃から少しずつ出来はじめ、年齢とともに増加します。皮膚神経線維腫の数には個人差があり、1000個以上できる患者さんもいれば、数個しかできない患者さんもいます。悪性になることはない腫瘍ですが、整容的な観点から切除術を行います。大量に切除術をする際は全身麻酔下に、少量ずつ切除する際は局所麻酔下に手術を行います。

大型の褐色斑とびまん性神経線維腫

生まれたときから10cm以上の色素斑がみられることがあります。学童期から徐々に膨らんできて、下垂することもあるため、整容面の問題のみならず機能障害(視野障害や運動制限)を生じることがあります。腫瘍内出血を起こしたり、悪性末梢神経鞘腫という悪性の腫瘍になる可能性もあるため、腫瘍が大きくなる前に手術で切除することが望ましいです。しかし、腫瘍の支持組織がもろく、血管が豊富にあるため、切除術の際に大量出血の可能性があります。腫瘍の栄養血管をつめたり、止血装置を用いて切除術を行うことで以前よりも周術期の出血量は減りましたが、十分な対策を取って手術を行う必要があります。海外では有効な分子標的薬がありますが、本邦ではまだ承認されておらず、保険適応ではありません。

神経の神経線維腫

皮下の神経に沿って固く触れ、痛みを伴うことが多いです。後腹膜腔という部位に大きな腫瘍ができることもあります。稀に悪性末梢神経鞘腫という悪性の腫瘍になることがあるので、切除術が望ましいです。しかし神経を切断することになるため、手術ができないこともあります。海外では有効な分子標的薬がありますが、本邦ではまだ承認されておらず、保険適応ではありません。

神経線維腫症Ⅰ型の患者様とご家族の方へ

ご病気を知って、インターネットを検索し、出てくる画像に驚いてしまう事があるかもしれませんが、悲観しないでください。多くの患者さんは一般的な学校生活を送り、就職され、家族を持たれています。また、日本ではまだ未承認ですが、有効なお薬ができ、今後も研究が躍進することが予想されます。医療機関に定期的に通院することで、治療が必要な症状を見逃さず、最適な時期に治療を受け、最良の治療を受けられる機会を持つようにしてください。

坂本 道治
神経線維腫症外来:月曜日