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口唇裂・口蓋裂

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唇顎口蓋裂とは?

先天異常疾患全てにおいて、顔の先天異常は約1/4を占める非常に頻度の高い疾患です。その中でも唇顎口蓋裂の頻度が最も高く、唇裂単独の場合は500人に1人の割合で発症するとされています。これは1学年10クラスあるような規模の大きな中学、高校では各学年に1人ずつくらいの割合であり、決して稀な疾患ではありません。
ヒトの顔が出来る過程の初期段階においては口唇も、口蓋もくっついておらず、そこから複雑な過程を経て癒合します。そこが「何らかの原因」で上手くいかなかった場合に唇裂や口蓋裂という症状が現れます。口唇部が癒合する時期にはまだ骨や筋肉がはっきりしていません。それぞれの器官に成熟していく過程を「分化」といいますが、この分化の過程も阻害されるため内部にあるべき歯槽骨や上顎骨の一部の形成不全も同時に起こります。先天異常疾患と聞かれると遺伝子異常などを想像されるかと思いますが、唇裂の原因として最も頻度の高い症候群でも2%に過ぎません。そして、ご両親に唇裂などがおありの場合でも、お子さんに発症するリスクは4%とされています。つまり、「何らかの原因」は明らかな遺伝子異常がないことの方が圧倒的に多いのです。この原因になりうる顔の発生過程を解明すべく、京都大学形成外科では基礎研究を行なっています。

唇裂、口蓋裂および顎裂、それぞれの病態と当院での治療方針

唇裂 症例写真へのリンク

唇裂の病態は、くっつくべき皮膚やその下の筋肉が癒合していないというものになります。そして、治療の目的はそれらを癒合した状態にするということになります。しかし、ただ癒合させるだけでは口唇の左右差、目立つ傷跡、機能しにくい(動きが不自然な)口唇といった問題が生じます。これらの問題を解決するために、皮膚の縫合の仕方だけでなく、皮膚の下に存在する筋肉の縫合の仕方など様々な手術方法が考案されてきました。京都大学形成外科ではそれぞれの患者さんの病態に合わせた、最も傷跡が目立ちにくく、かつ機能しやすい口唇を形成することをこころがけています。
初回手術のみで終了できるのが理想ですが、残念ながら裂の状態に応じて、成長とともに歪みが生じ、修正術が必要となることもあります。また、唇裂においては鼻の変形も伴いますので、その治療も必要となります。このように数回の手術が必要となることが多くあります。最終的な仕上げの手術は思春期頃になることが多く、それまでは患者さんの都合に合わせて就学前や長期休暇などを利用して手術を受けていただくことになります。京都大学形成外科では、患者さん、ご家族の思いを大切にしながら、最終ゴールに向かって有効かつ必要最小限の回数の手術を行っています。

口蓋裂

口蓋という器官について、普段意識されることはほとんどないと思いますが、日常生活においてなくてはならない存在です。まず、鼻腔と口腔を隔てることで、飲んだり食べたりしやすくする役割があります。そして、ヒトにおいてはことばを発する上で必要不可欠な機能を持っています。特に重要なのは軟口蓋という口蓋の後ろの部分です。軟口蓋の中には筋肉が走っており、食べ物や飲み物を飲み込んだり、様々な音声を作ったりする際にその筋肉を無意識に動かしているのです。ここでことばを発する機能についてお話しします。ことばというのは非常に複雑な音の変化によって成り立っています。ヒトが音を発する仕組みはリコーダーやサックスなどの管楽器とよく似ています。管楽器においてはマウスピースの部分で音が作られ、楽器の中で音が鳴ります(共鳴します)。そして音孔を塞ぐことでその音程を変え、様々な音色を奏でます。ヒトにおいては声帯で声のもととなる音が作られ、その音を口腔や鼻腔で共鳴させます。そして、口唇や舌が当たる位置や息の出し方を変えることで様々な種類の音に変えます。この操作を「構音」と呼び、ことばになる音をつくります。日本語の子音は、ナ行、マ行は鼻腔に呼気が抜けることによってつくられる音ですが、それ以外の音は口唇や舌などによって口の中の一部を閉鎖した後に急激に開放することや、または狭めをつくってそこを呼気が通過する際の摩擦により音をつくります。そのためには、口の中の圧力を上げることが必要になります。
口蓋裂がある場合、声を口の中だけで共鳴させることや口の中の圧力を上げることが出来ないため、ことばが上手に喋れないという状態になります。ことばは社会性を維持する上で最も大事なツールですので、ことばが出だす1歳〜1歳半を目安に口蓋形成術(口蓋の隙間を閉じて、軟口蓋の筋肉をつなぎ合わせる手術)を行います。この手術においては軟口蓋の筋肉がしっかり機能できるように形成することを目的にしています。
また、口蓋裂のある患者さんに関しては、言語聴覚士が手術前の乳児期から定期的に関わり、乳児期は哺乳や離乳食に関する相談にのったり、術後はことばの発達や構音の状態を診ていきます。そして、必要に応じて構音指導を行います。また、構音障害が改善しない場合は各種検査を行い、構音指導のみでは改善が見込めないと判断した場合は手術治療が必要となることもあります。

顎裂

上顎の歯ぐきがくっついていない病態で、歯並びや噛み合わせに問題が生じてきます。顎裂単独で発症することはなく、唇裂も伴いますので、当科にて唇裂の術後経過を診させていただきながら適切な時期(小学校入学前後)に矯正歯科治療を開始します。主に我々と連携している矯正歯科クリニックを紹介させていただいておりますが患者さんの状況によっては近隣の矯正歯科クリニックをご紹介させていただきます。歯ぐきが割れている部分には骨が無いため、歯が生えにくい状態です。ですので、そこに骨を形成して歯が生える土台を作る手術が必要となります。また、歯ぐきの奥は同時に小鼻の土台にもなっていますので、わずかではありますが鼻の形態改善にもつながります。この手術は、主に犬歯の萌出時期に合わせて行っており、8~10歳くらいが目安になります。患者さんの体格、裂の状態によっては最適な時期を検討します。主に腰骨(腸骨)からの骨移植を行っています。その後、矯正歯科にて骨移植部に歯を誘導していただき、きれいな噛み合わせ作っていきます。

唇裂外鼻形成についての当院での治療方針 症例写真へのリンク

唇裂治療において、思春期以降の外鼻形成術は最終治療に位置付けられることが多く、その後の患者さんのQOLに非常に大きな影響を与える最も大切な治療の一つです。そのため、当科では幼少期から最終治療を見据えた治療を心がけています。手術を受けるとその部位には必ず「瘢痕」いわゆる傷跡が残ります。この場合表面から見える傷跡だけではなく皮下の傷跡も意味しています。この瘢痕は非常に硬く、場合によっては厚みを持ちます。このため、外鼻形態に影響を与えたり、最終的な手術を困難にすることもあります。そのため、当科では最終的な治療でよりきれいに仕上げるため、幼少期の外鼻形成術は侵襲を必要最小限に止め、思春期以降の外鼻形成で可能な限りの改善を目指します。

唇裂の病態は、皮膚の癒合不全だけでなく、多くの患者さんにおいては皮下に存在する組織の形成不全が存在します。その間接的な影響で、鼻中隔湾曲やそれに伴う斜鼻変形などを生じます。幼少期には鼻先や鼻孔の形が治療のターゲットとなりますが、成長により骨格形態がはっきりしてくると、鼻軟骨や鼻骨といった骨格の形態改善が必須となります。また、治療としては、これらの構造を解剖学的に正しい位置に修正する作業だけでは不十分であり、「顔面全体と調和した鼻」を考えた治療が必要になります。このような個々の患者さんの顔貌および希望に合わせた治療結果を得るためには、非常に高度な形成外科的、美容外科的な知識、技術が必要不可欠となります。当科では、最新の3Dカメラ、CTなどを用いて状態の評価を行った上でそれぞれの患者さんに最適な治療を提供しております。

 

唇裂患者さんの中には今まで多数の外鼻形成手術を受けて来られた患者さんも多く、手術によって生じた瘢痕の影響で鼻尖形態の改善が困難な場合もあります。Movie_1の患者さんは回転変位した鼻尖や鼻孔が正面から見えるなどといった点をお悩みでした。今まで複数回の治療を受けられた影響から鼻尖形態を完全に改善するのは困難でしたが、鼻梁形態改善を含めた顔貌のバランスに合わせた外鼻形成を行うことで鼻尖の変形がより目立ちにくくなっています。このように若干回り道をすることで、局所的な悩みを解決することも可能です。

Movie_1

Movie_1 鼻背から鼻尖にかけて肋軟骨を用いて外鼻形成

 

多くの患者さんは育成医療が適応となる18歳までに治療を受けていただくことが多いですが、時間にゆとりが出来てから治療を受けられる方も多くいらっしゃいます。治療内容にもよりますが、入院期間は術後1週間程度が目安となります。Movie_2の患者さんは複数回の治療を受けておられますが、鼻尖のみならず鼻骨変形も認めたため、鼻骨骨切り術、肋軟骨移植による鼻背形成および鼻尖形成術を行っています。また、同時に口輪筋再建術を行い鼻柱傾斜の改善も行いました。術後1週間で抜糸し退院されています。

Movie_2

Movie_2 鼻骨骨切りおよび鼻背から鼻尖を肋軟骨を用いて形成。口輪筋再建により鼻柱傾斜も改善。

 

また、唇裂外鼻においては機能面でも問題をお持ちのことが多くあります。唇裂の病態から鼻中隔変形を生じやすいため、多くの患者さんが鼻閉をお持ちですが、幼少期から症状があるため改善可能であるとご存知ないこともあります。鼻中隔は中顔面の成長にとって重要な構造物ですので幼少期に治療は行えませんが、成人期の外鼻形成ではこの鼻中隔の変位も治療可能です。また、鼻閉を改善するには軟骨性鼻中隔だけでなく、骨性鼻中隔や下鼻甲介の治療も必要になります。外鼻形成術を計画する段階で、鼻閉症状がある場合は外鼻形成術と同時に、耳鼻咽喉科と合同で内視鏡下の鼻中隔矯正および粘膜下下鼻甲介切除を行い、審美的かつ機能的に良好な鼻形成を行っています。

セカンドオピニオンなども承っております。お気軽にご相談ください。

Q&A

妊娠中に赤ちゃんに唇裂があると言われましたが診察してもらうことは出来ますか?

治療の内容やシケジュールなど具体的にご説明します。かかりつけの産婦人科医院で診療情報提供書を書いていただき、当院地域医療連携室にご連絡ください。木曜日に唇顎口蓋裂専門外来を設け、通常は午後の診察をご案内させていただいております。

家が遠いのですが、診療してもらうことは可能でしょうか?

遠方からご来院の患者様につきましては、構音指導・矯正治療などが頻回の通院を必要とする場合、状況によってなるべく近隣の施設との連携をおこない負担が少なくなるように配慮いたします。担当医にご相談下さい。

セカンドオピニオンで伺ってもよろしいでしょうか?

病態に応じて可能な治療をご提案いたします。その際に、今まで行って来られた治療履歴などが非常に重要になりますので、診療を受けていらっしゃる病院で診療情報提供書を作成していただき、当院地域医療連携室にご連絡ください 。木曜日に唇顎口蓋裂専門外来を設け、通常は午後の診察をご案内させていただいております。

当院地域医療連携室
TEL 075-751-4320

最後に

京都大学形成外科では、形成外科、歯科・口腔外科、矯正歯科、小児科、耳鼻咽喉科、精神科、言語聴覚士で構成される診療チームをつくり、「チーム医療」の体制で診療を行なっています(図)。顎裂・口蓋裂を伴う患者様には口唇裂の治療に先立ち、当院口腔外科の協力の元、Hotz床やNAM (naso-alveolar molding) 装置と言われる術前の顎・外鼻矯正装置を用いて唇裂初回手術でさらに良い成績を得ることができるように補助的治療もおこなっています。口唇裂・口蓋裂は手術をすればそれで良いといった単純なものではありません。患者様あるいはその御家族が社会生活を送っていく上での様々な問題に配慮し、計画的に解決していくように各分野の専門スタッフが対応しております。

当院での口唇口蓋裂治療スケジュール

外来受診につきまして

口唇口蓋裂専門外来を木曜日(午前、午後)に設けております。
当科は原則的に予約制となっており、初診受付時間は、午前9時~午前11時です。
受診時には、出来るだけ他医療施設からの紹介状をお持ち頂くようお願い致します。

文責:京都大学医学研究科 形成外科
勝部元紀